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12 夏の香り


言葉を綴る習慣を思い出そうと、この日記をUPし始めてひと月が経過した。

炎夏の夜を慰める雨声を聴いた日から、あっという間のような、まだまだのような、少し曖昧な気持ちでいたのだけれど、気がつけば夏陰を探し歩いた季節が少し和らいだ気がする。

マンション前の路地では鳴き疲れた蝉が儚い生涯を終えていた。課題に追われる学生の嘆きに紛れて、来年使用の手帳発売という声が画面の向こうから聞こえてくると、そんな時期かーとまたぼんやり思う。夏らしいことをしたいなーと思っていたのに、結局打上げ花火も夏祭りにも参加できず、浴衣を着ることもなく、気がつけば8月も終わるという事実。例年のごとく「夏らしい」ことに縁がないまま、日々の小さな出来ごとから季節は滔々と流れているのだと思い知る毎日。

自分の誕生日が8月の終わりのせいか、誕生日が来ると夏の終わりを想う。関東は夏休みの終日が8月末ということもあって、この感覚は学生時代の名残かもしれない。今年もそろそろひとつ年を重ねる。そんなに嬉しくもないけれど、否定するほど嫌でもない。夏生まれなのに夏が苦手だということが少し切ない。

季節が移り変わる前触れか、竜の巣のような積乱雲を見た。あの中に絶対ラピュタの城が浮かんでいるはず!と驚愕しつつ見ていたのだけれど、TLで同じように思った人が大勢いて笑ってしまった。名作は何年経っても色褪せずに人の心に残るのだなと思う。飛行石が欲しいな。

そんなことを思っていたら、翌日は途切れることのない光が雲を割くように駆け抜けて、雷鳴轟く豪雨となった。この日は実に二万もの落雷があったらしい。熱に呼応する雲が鳴いているようだ。体の奥底に響く雷鳴に慄きつつ、どこかでその雷光を美しいと称えながら窓の外を眺めていた。苛烈な夏の声を聴いた空は、何に憤っているのだろう。誰かが『バルス』とでも唱えたのか。

尊大に膨れ上がった自意識を垂れ流して街を構築し、万能であるかのように振る舞う様を嘲笑うように、自然はあがらうことのできない力をもって、唐突に人の営みを蹂躙する。その度に人は自然の力の激しさに驚愕し、畏れ、哀しみ、憤るのだけれど、また少しずつ記憶を溢しながら前へ前へと歩いていく。人は愚かで可愛い生き物だから、日々何かを忘れながら生きていく。忘れたいことも忘れたくないものも、忘れてはいけないことも等しく。この雷雨も週が明ければ話題にものぼらないだろう。自然の脅威という言葉を目にする度に、自嘲しながらそんなことを思う。

人は愚かで可愛い生き物なので、自身を過剰に褒め称えなければ生きていくこともままならない。それが自分への鼓舞であれ憐憫であれ同じことで、他者と比較しながら社会性を身につけることを義務付けられた人間は、絶えずマウントを奪い合うようにして生きている。そうしなければ漠然とした不安や苦悩に押し潰されてしまうのだろうか。愛し合う人と日々の食事と安心して眠れる場所さえあれば、人は生きていくことができるというミニマムな原理原則に共感を覚えた夜が沈んでいく。もっとシンプルに生きたい。

雷鳴を轟かせた雲は熱を引き連れてどこかに消えた。喧騒の夜に落としていったのは、夏の終わりを告げる湿風と雨の香り。今年の夏がまた南へ帰っていく気配がする。あなたは苦手だけど嫌いなわけじゃない。

ぼんやりしていると知らないうちに消えて見えなくなってしまうから、ここに記しておく。


さようなら。
また来年逢いましょう。









by yukadiary | 2018-08-29 00:32 | DIARY

管理人YUKA(左利き)MY弁当と日常の記録ノートです。下の「マイク」マークを押していただくとインタビュー記事が開きます。


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