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13 雨夜の月

変な時間に仮眠を取ったせいで眠れなくなってしまった。

しかたが無いのでこそこそと珈琲を淹れはじめた。ドリッパーを用意し、カリカリと豆を挽き、温めたカップに少しづつ丁寧にお湯を注ぐと、ふわりといい香りが立ちのぼる。いつもより少しだけ丁寧に淹れた珈琲は、何も入れずにほろ苦さを味わうほうがいい。美味しいと思えることに満足する。

ゆるりと流れる曲を聴きながら珈琲の香りが燻る怠惰な時間。好きなことを好きなだけ想う時間。つかの間の自由時間はいつもこんな時間に訪れる。怠惰と赦しを許容する真夜中の空気は好きだ。明日の予定を思えば早く寝るべきなのはわかっているのだけれど、忙しいときほど私は好んで夜更かしをしてしまう。時が流れていくのをただ漫然と眺めるだけの時間を得ることで、忙殺される日々とのバランスを取っているのだと思う。少し疲れているのかもしれない。

苛烈に照りつけていた陽が柔らかくなり、空が高くなった。暑さと寒さが曖昧になり、秋が来たなぁと思う。読書の秋、食欲の秋、創作の秋。今年の秋は何がしたいだろう。夏が陰り始めると毎年そんなことを考えて、私はいつも早々に夏を終わらせてしまう。薄れゆく炎夏に少しほっとする。夏が1番好きだという彼ほど私は夏が好きではなくて、好きにはなれなくて、それをいつもなんとなく申し訳ないなぁと思う。同じものを同じように好きになれなくてもいいとわかってはいるのだけれど。

嬉しいと思う出会いがあった。寂しいと思う別れがあった。楽しいと思うことが1つ増えた。同じように面倒だなと思うことも増えた。好きではなかったことに興味を持ち、好きなことが少し薄れていく。天秤にかければ結局同じだけの重さがのし掛かって、また1つ抱える荷物が増えただけな気もする。荷物を下ろせば楽になるのだろうか。

どうしたら荷物を下ろせるのかといつも考えるのだけれど、生きるということは何かを抱えて生きていくということなわけで、ひとりでは生きられないように手ぶらで歩くことなんてできないのだとも思う。何かを好むということが何かを嫌うことに繋がって、何かを選ぶことが何かを切り捨てることに繋がるのだとするなら、新たに荷物を抱える隙間を生むだけかもしれない。

雨の匂いがして、なんとなく窓の外を覗くと眼下の路面が濡れていた。ぽつりと立つ外灯が滲むように光っている。今日の雨は音も立てずに訪れたらしい。朝には止むだろうか。街を包むような細かい雨が上がった朝は、冷たく澄んだ独特の匂いがして、街が少し潤んで見えるかもしれない。


そう思うと、夜明けが少し楽しみになった。







by yukadiary | 2018-10-12 00:59 | DIARY

管理人YUKA(左利き)MY弁当と日常の記録ノートです。下の「マイク」マークを押していただくとインタビュー記事が開きます。


by YUKA
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